法律用語には「みなす」と「推定する」という用語があります。
一般的な意味では、両者には違いがないように思えます。
ところが、法律の世界では、かなり大きな違いがあります。
この記事では、「みなす」と「推定する」の違いについて、分かりやすく説明しました。
「みなす」と「推定する」の違いを一言で説明すると?
最初に、「みなす」と「推定する」の違いを簡潔にまとめてしまいます。
両者の違いは
- みなす:事実として扱い、反対の事実が証明されても、事実としての扱いは変わらない
- 推定する:事実として一応認めるが、反対の事実が証明されると、認められたものが否定されることがある
となります。
つまり、「AをBとみなす」とすると、たとえAがBではないことが証明されても、AがBであるという扱いに変わりはありません。
一方、「AをBと推定する」とした場合は、もしAがBではないことが証明されると、AはBでないという扱いをうけることがあるということになります。
みなすの意味は?
続いて、「みなす」の意味を具体例を交えて詳しく説明していきます。
「みなす」は、事実がどうであれ、「みなす」とされた事例は、それを事実として扱うことになります。
このとき、たとえ反対の事実が出てきて、それが証明されたとしても、「みなす」とされた事柄は事実として覆ることはありません。
いわば、「みなす」は絶対的な性質があり、一度「みなす」とされたものは、その後ずっと事実として扱われることになります。
例えば、民法第939条では
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
と規定されています。
相続放棄とは、相続を受ける資格のある相続人が、相続にかかる一切の権利義務を受け継がないことです。
相続というと、一般的には財産を相続するというイメージがありますが、借金などの債務あれば、その債務も引き継ぐことになります。
そのため、債務の額が大きすぎて、「相続した債務>相続した財産や債権」というような場合は、相続を放棄することもあり得るのです。
そして、第939条の規定のように、相続を放棄した者は初めから相続人ではなかったという扱いをうけることになります。
この場合、相続開始前に相続する資格があったとしても、一度相続を放棄した者は、この先何があっても相続人になることはできないというわけです。
もう1つ、みなすの例をあげてみます。
民法第1023条1項では
前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
と規定されています。
一度遺言書を作成しても、その後状況が変わり、遺言者が新たに遺言をしたいという場合もあるでしょう。
基本的に、遺言というのは、一度遺言書を作成しても、いつでも遺言の方式に従って、以前の遺言の全部又は一部を撤回することができます。
ですが、前の遺言と後の遺言があり、どちらも正式な方法で作成されているものだったとしましょう。
このとき、後の遺言で前の遺言を撤回するという意思が示されていないならば、どちらの遺言が有効となるのか、判断できませんよね。
この問題を解決するため、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなすという規定が設けられました。
この場合、たとえ以前に作成した遺言書が遺言者本人の真に望むところであったとしても、その後に作成した遺言書によって撤回されることになります。
仮に、前の遺言が遺言者の意思を正確に反映したものであると証明された場合であっても、後の遺言で前の遺言を撤回したとみなされる以上、後の遺言書が効力を持つことになるというわけです。
推定するの意味は?
「推定する」という法律用語は、事実であるかどうかわからない事柄を、法律上は一定の事実があるものとして扱うことを言います。
この場合、もし反証があったなら、事実とされたものが否定されることがあります。
「みなす」とは異なり、一応は事実として認められるものの、絶対的な効力はなく、事実が否定される余地があるということになります。
こちらも例をあげてみます。
民法772条1項では
妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
と定められています。
この「推定する」という規定により、原則としては、妻が懐胎した子供は、妻の夫の子供であるとされます。
ただし、DNA鑑定などで夫の子供でないことが証明されたりすると、夫の子供であることが否定されます。
実際に、妻の不貞行為によって、夫とは別の男性の子供を宿すということもあり得るでしょう。
その確たる証拠が認められれば、最初の推定はなかったことになるというわけです。
まとめ
以上、「みなす」と「推定する」の違いについて説明しました。
最後に、身近な例をあげてみましょう。
例えば、トマトは植物学の分類では野菜とされますが、一部の料理で果物として扱われることがあります。
このとき
- トマトを野菜とみなす:たとえトマトが果物であることが証明されても、野菜として扱われる
- トマトを野菜と推定する:トマトが果物であることが証明できれば、果物としての扱いに変わることがある
となります。
「みなす」は何があっても変わらない性質を持ちますが、「推定する」は状況によっては変わる可能性があるということです。