私たち国民が安心して生活していくためには、悪いことをした人を取り締まったり、食品や医療品を安全に確保したり、災害を未然に防ぐための対策を講じたりと、様々な行政活動が必要となります。
ただし、行政活動には権力の行使が伴うものであり、その権力を行政担当者の恣意や独断で濫用することはできません。
そのため、行政活動は、国民の作ったルールである法律に基づいて行わなければならないと考えられています。
この考え方を「法律による行政の原理」と言います。
そして、法律による行政の原理には
- 法律の法規創造力
- 法律の優位
- 法律の留保
の3つの原則があります。
この記事では、それぞれの原則について分かりやすく説明しています。
法律の法規創造力
法律による行政の原理の1つに、「法律の法規創造力」という概念があります。
これは、国民の権利義務に関する法規範は、法律によってのみ創造することができるという考え方です。
具体的には、世間一般の人々の権利や義務に影響を与えるルールは、国会で法律として定めるべきだということです。
憲法41条で
国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。
と記されている通りです。
このとき、行政は勝手にルールを作ってはいけないとされます。
ただし、法律の授権があれば、行政もルールを作ることができると考えられています。
実際に日本でも、法律以外に、政令(内閣による命令)や省令(各省大臣による命令)といった形で、行政によるルールが存在します。
法律の優位
行政の活動は法律に違反してはならず、また、行政措置によって法律の内容を変えてはいけないという考え方があります。
これを「法律の優位」と言い、法律による行政の原理の1つの概念です。
法律と行政の上下関係を定めたものであり、行政は法律に従うべきということです。
行政活動が法律に違反すると違法となり、その行政活動は効力を失ってしまいます。
法律の留保
法律による行政の原理の3つ目の原則が「法律の留保」です。
これは、行政活動は法律の根拠に基づいて行わなければならないという概念です。
ただし、法律の留保の範囲については色々な考え方があります。
全部留保説
全ての行政活動において、法律の根拠が必要であるという見解があり、これを全部留保説と言います。
侵害留保説
国民に新たな義務を課したり、国民の権利や自由を侵害する行政活動にのみ、法律の根拠が必要であるという見解もあります。
これを侵害留保説と言います。
権力留保説
権力留保説という見解もあります。
これは侵害留保説を拡張したものであり、侵害的行政活動でも受益的行政活動でも、行政活動が権力的な行為形式によるものであるときには法律の根拠を必要とするという考え方です。
本質留保説
本質留保説という見解もあります。
憲法における基本的人権の実現にとって本質的である領域には、法律の根拠が必要であるという考え方です。
以上のように、法律の留保の範囲については見解が分かれるところですが、現在の日本の行政では侵害留保説を採用していると考えられています。
全ての行政活動に法律の根拠が必要だとすると、あらゆる活動に時間がかかって滞ってしまい、逆に国民が困ってしまうことになりかねません。
極端な例になりますが、公務員の活動も行政活動にあたるので、公務員が買い物をするときも色々な規定を法律で定める必要が出てきます。
さすがに、これは現実的ではありませんよね。
また、例えば、補助金や給付金の交付などは国民にとって利益になるので、その根拠となる法律がなくても、国民とっては都合がよかったりします。
そのため、日本では国民の利益となる行政活動は法律に基づくことなく、侵害的な行政活動にだけ法律の根拠を必要としたものと考えられます。
もちろん、受益的な行政活動にも法律の根拠を必要とするのが望ましいときもあるでしょう。
実際、日本でも授益的行政活動であっても、法律に基づいているものもあります。
ただ、実務的には現在の侵害留保説でうまく回っている部分があります。
とはいえ、侵害留保説がいつどこでも妥当というわけではなく、情勢の変化により、法律の根拠を必要とする範囲を拡大することは可能であると一般的に考えられているようです。
まとめ
以上のように、法律による行政の原理には3つの原則があります。
ただし、法律の留保については様々な見解があり、理解しにくいかもしれません。
正直、実務では学説の違いはさほど大きな問題にはならないというところです。
大学の法律の試験や資格試験で問われることはあるかもしれませんが、あまり深入りすることなく、この記事で解説したことを覚えておけば大丈夫でしょう。