法律用語には「附款(ふかん)」という言葉があります。
「付款」と書かれることもありますが、講学上は「附款」と表記されることが多いです。
附款は行政行為の内容を制限するもので、いくつかの種類があり、その全体像を捉えるのは少し難しいかもしれません。
この記事では、行政行為の附款について、具体例をあげつつ詳しく説明しています。
行政行為の附款とは?
行政行為の附款とは、行政行為の主たる意思表示に付される行政庁の従たる意思表示と定義されます。
といっても、これだけではよく分かりませんよね…
簡単に言うと、附款とは、行政が特定の許可や命令を出す際に、それに追加する条件や制限のことを指します。
これによって、相手方にとっては、行政行為の内容が制限されたり、特別な義務が生じることになります。
例えば、ある業者が事業を行う許可を得るときに、特定の安全基準を満たすことが条件とされることがあります。
この場合、安全基準を満たすという条件が附款となります。
事業の許可という行政行為の内容を制限するものであり、許可を得ようとする業者は安全基準を満たすという義務を果たさないといけません。
このように、行政庁は附款により、行政行為の範囲を制限し、相手方に具体的な要求を設定することができるというわけです。
一見すると、附款は相手方にとって不自由を課すことになると考えられます。
ですが、附款は、あくまで行政行為の目的を達成するために設けられるものです。
附款を用いることで、行政はより柔軟に対応することができ、目的に沿った効果的な管理が可能になるのです。
ただし、附款の内容次第では不当に人権を侵害する可能性もあるため、無制限に設けることはできません。
そのため、附款の内容は行政行為の目的を達成するものでなければなりません。
そして、行政行為の目的に照らして、必要最小限で合理的なものである必要があります。
行政行為の附款にはどんな種類がある?
附款には、以下の5種類があります。
条件
附款の1つに「条件」がありますが、これは民法などで出てくる法律用語の条件と同じです。
すなわち、行政行為の効力の発生または消滅を、将来の不確定な事実にかからせる意思表示のことをいいます。
事実の発生によって効果が生じる停止条件と、事実の発生によって効果が消滅する解除条件の2つがあるのも同じです。
停止条件と解除条件は、言葉の印象からして、それぞれの意味を混同してしまうことがあるかと思います。
詳しい解説は以下の記事をご参照ください。
期限
「期限」も、一般的な法律用語の期限と同じ意味です。
すなわち、行政行為の効果の発生を、将来に到来することが確実な事実にかからせる意思表示のことをいいます。
- 行政行為の効果が期限の到来によって発生する場合:始期
- 行政行為の効果が期限の到来によって消滅する場合:終期
というのも同じです。
例えば、地域の住民がお祭りを行うために、自治体の公園の使用を申請し、「令和6年8月1日~令和6年8月5日」まで公園の占有許可が下りたとしましょう。
この場合、令和6年8月1日が始期、令和6年8月5日が終期になります。
負担
負担とは、主たる意思表示に付随して、行政行為の相手方に特別な義務を命ずる意思表示のことをいいます。
先ほどの公園の占有許可の例でいうと、公園の使用料を支払うことが義務付けられた場合、この使用料の支払いが負担に該当します。
また、よくあげられる例として、運転免許の交付のときに「眼鏡等」の使用を義務付けられることがありますが、これも負担に該当します。
そして、負担の大きな特徴の一つとして、行政行為の相手方が負担に従わなくても、その行政行為の効力に影響を与えないというものがあります。
例えば、車の運転に眼鏡等が必要な人が、眼鏡などを使用せずに運転しても、運転免許の効力がなくなるわけではありません。
公園の占有許可の例でいえば、使用料の支払いが行われなくても、許可自体は効力を失うことはないということです。
ただし、負担に従わなかった場合、行政庁により許可が撤回されたり、強制履行により公園の使用料が徴収されるということはあります。
あと、負担は「条件」と似ているところがあり、混同されがちですが、条件はその成就により当然に効果が生じ、あるいは効果が消滅します。
一方、負担は前述のように、行政行為自体の効力に直接関わることはありません。
この点が両者の大きな違いです。
撤回権の留保
撤回権の留保とは、行政行為の主たる内容に関して、特定の場合に行政行為を撤回することを留保する意思表示をいいます。
法令の条文などでは「取消し」と表現されることがありますが、撤回の意味で用いられているときがあります。
法律用語の取消しと撤回は大きな違いがあり、重要なポイントとなるので、ぜひ以下の記事をご参照くださればと思います。
再び公園の占有許可の例でいえば、「許可期間中であっても、公益上その他必要のある時は許可を取り消すことがある」というような文言が付されることがあります。
この<「公益上その他必要のある時」の予定(留保)により、許可の撤回ができるということです。
ただし、撤回権の留保は相手方に不利益となる場合があるので、行政庁が無制限に行うことはできず、合理的な理由が必要となります。
十分な合理的根拠がなければ、撤回の留保は認められません。
法律効果の一部除外
法律効果の一部除外とは、行政行為における効果の一部を発生させないことをいいます。
よくあげられる例としては、国家公務員が出張する際に旅費は一定額までしか支給されないというものがあります。
これは「国家公務員等の旅費に関する法律」46条の
各庁の長は、(中略)不当に旅行の実費をこえた旅費又は通常必要としない旅費を支給することとなる場合においては、その実費をこえることとなる部分の旅費又はその必要としない部分の旅費を支給しないことができる。
という規定に基づいて可能となる措置です。
法律効果の一部除外は、通常法律で認められているものを除外する行為なので、必ず法律でその根拠が規定されている必要があります。
行政庁が独自の判断で、法律で認められていないことを除外することは許されません。
国家公務員が出張するときに旅費は一定額までしか支給しないという例も、「国家公務員等の旅費に関する法律」にその根拠があるからこそ可能になるということです。
附款が違法なものであったときはどうなる?
附款が違法なものであった場合はどのように取り扱われるのでしょうか?
まず、附款自体が取消しや無効になることがあるのは当然のことです。
問題となるのは、行政行為本体にどのような影響を与えるかという点です。
附款は行政行為の一部であるため、必然的に行政行為全体にも影響を及ぼします。
少しややこしいですが、次のように2通りに分けると理解しやすいと思います。
- 附款が行政行為の重要な要素であるとき:行政行為と附款を合わせた全体が違法となる
- 附款が行政行為の重要な要素でないとき:附款の付いていない行政行為として扱われる
上記のように解釈するのが通説となっています。
附款が行政行為の重要な要素でないときは、その行政行為本体に影響を及ぼすことはなく、有効である点に注意する必要があります。
まとめ
附款の定義を見ると、難しい言葉で書かれていて分かりにくいですが、5種類の附款を具体例とともに把握すると理解しやすいと思います。
要は、行政行為に付される追加の規定のようなものです。
附款も意思表示であり、私人の権利義務に影響を与えるものなので、行政行為であることに変わりはありません。
そのため、行政庁がその内容を自由に設定することはできず、必ず一定の制約を受けるという点は特に注意が必要となります。