民法に規定されている留置権と同時履行の抗弁権は、その性質がよく似ているので、混乱することがあると思います。
ただ、留置権は物権ですが、同時履行の抗弁権は債権法で認められたものです。
まずは、この点を押さえておくと、両者の違いが分かりやすくなるでしょう。
この記事では、留置権と同時履行の抗弁権の違いについて、分かりやすく説明しています。
留置権と同時履行の抗弁権の違いのポイント
最初に、留置権と同時履行の抗弁権の違いを、簡単にまとめました。
とりあえず、以下のポイントを覚えてしまい、その後の具体的な解説に目を通してくださればと思います。
そして、再びこのポイントに戻って確認していくようにすれば、記憶に定着していくものと思います。
- 留置権は誰にでも主張できるが、同時履行の抗弁権は契約者の相手方にしか主張できない
- 留置権の拒絶できる給付内容は物の引き渡しのみだが、同時履行の抗弁権には制限はない
- 留置権は債務の全部の弁済をうけるまで権利の行使ができるが、同時履行の抗弁権は債務の一部弁済があれば割合的に行使される
- 留置権は相当の担保の供与により消滅させることができるが、同時履行の抗弁権では認められない
- 留置権には目的物の競売権が認められるが、同時履行の抗弁権では認められない
留置権と同時履行の抗弁権のそれぞれの違いを徹底解説!
では、以下に、留置権と同時履行の抗弁権の違いを細かく、かつ詳しく解説していきます。
権利を主張できる相手方の違い
おそらく、留置権と同時履行の抗弁権の根本的な最も大きな違いと言えるでしょう。
留置権は物権なので、排他的、絶対的性質を持っており、権利の内容に応じて物を直接支配できます。
そのため、留置権が生じた原因となった契約の相手だけでなく、誰に対しても権利の主張をすることができます。
一方で、同時履行の抗弁権は、債権法で認められた権利であり、原則として契約の相手方に対してのみ主張でき、第三者にはできません。
ただし、例えば、売買契約が締結され、物の引き渡しと同時に代金を支払うとことになっていたとします。
このときに、売主が他の第三者に代金債権を譲った場合、買主は債権を譲ってもらった者に対して、条件によっては、目的物を引き渡してもらうまで代金を支払わないと主張できるときがあります。
売買代金債権が譲渡された場合、買主である債務者が売主である譲渡人に対して同時履行の抗弁権を主張できるときは、第三者である譲受人に対しても同時履行の抗弁権を主張できるということです。
拒絶できる内容や権利の目的の違い
留置権の目的は、物に関して発生した債権を有しているときに、物を占有することによって、債務の履行を促すという点にあります。
したがって、債務者に対する抗弁としては、専ら物の引き渡しを拒むということになります。
例えば、車屋さんから車を修理してもらった場合、修理費を支払わなければいけませんが。
車屋さんは代金の支払いが完了するまでは、修理を依頼した人に車を返すことを拒むことができます。
それに対して、同時履行の抗弁権は、契約の内容によって様々です。
売買契約だと、代金を支払うまでは物の引き渡しを拒むというケースもありますが。
契約解除となった場合の原状回復義務や、請負人の修補義務に代わる損害賠償義務と注文者の報酬支払など、物の引き渡しを伴わないものがあります。
債務の履行の形態は、極論すれば無数にあるので、同時履行の抗弁として債務を拒絶する場合、物の引き渡しに限らず制限がないということになります。
債務の一部弁済による効果の違い
留置権は担保物権であり、いわゆる不可分性が認められます。
すなわち、債権の全部の弁済をうけるまでは、目的物の全部に対して権利を行使できるということです。
そのため、債務の一部の履行があったとしても、目的物の全部の引き渡しを拒むことができます。
ですが、同時履行の抗弁権には不可分性はありません。
したがって、債務の一部の履行があった場合は、基本的に相手方の債務の履行していない部分に対してのみ拒否できるということになります。
ただし、債務の性質によっては、全ての履行を拒むことができない場合も考えられます。
債務の性質に応じて、ケースバイケースで判断していくことになります。
相当の担保を供与できるどうか?
留置権は、民法の規定により、相当の担保の供与により消滅させることができます(301条)
ですが、同時履行の抗弁権では、認められません。
目的物の競売権認められるかどうか?
留置権は、民事執行法により、目的物の競売権が認められています(195条)
しかし、同時履行の抗弁権では、そのような制度はありません。
まとめ
留置権と同時履行の抗弁権は、その性質が似ているため混同しやすいですが、留置権は物権であり、同時履行の抗弁権は債権法に基づくものです。
留置権は誰にでも主張でき、物の引き渡しのみを拒絶できますが、同時履行の抗弁権は契約相手方にのみ主張でき、拒絶できる内容に制限はありません。
これらの違いを理解することで、両者を正確に区別することができます。